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#光を追う

  • 執筆者の写真: toshiki tobo
    toshiki tobo
  • 2022年3月19日
  • 読了時間: 5分

日常の中でふと足を止める。

そうすると分からないことは意外にもたくさんで。

毎日何もない、とか、つまらない、は

スムーズに毎日が進みすぎているのかもしれないね。


昨夜の雨は遠い日のことみたいに

今日は朝から青空が広がった。

日影に広がった水溜りが微かに名残をとどめている。


午後、僕は友人との予定の後、新宿にいた。

来週の出張に備え、用をたしに出かけた。

久々の新宿はどこも人がいっぱいで。

上京してきた新大学生と思しき人たちで溢れていた。


誰かと被りそう、とか、悪目立ちしないかな、とか

そう話しながら友達と洋服を探している人たちもいたりして

かつての自分を思い返してみたり、みなかったり。


新宿はとても複雑な街だ。

いまだに街中で迷子になりそうになったりもする。

何度も同じところへ行っているはずなのに

毎度歩く経路がちがったりもしてね。


その複雑さは地下になると本領を発揮する。

風来のシレン。まさにダンジョン。

地下鉄新宿三丁目の駅は本当に複雑。

地上へ出なくてもいろんなところへゆける。

それゆへに道がいくつも枝分かれをしていて

方向感覚を完全に失ってしまう。


半ば迷いながらも、なんとなく方向がわかり始めたころ、

目の前を白杖をもった方がゆっくりと歩いてきた。

慎重に、不安げな様子で、ゆっくりゆっくりと

歩を進めていた。


かつて自分ができなかったことを

今度はできればいいなと思い声をかけた。

よろしければお連れいたします、との誘いに

齢60ほどのおじさんは二言返事でOKをくれた。

そして、僕の肘に手をかけてくれた。

嬉しい!


たまたま向かうホームが同じだったので

いろいろとお話をしながら一緒に歩いた。


かつてはもっと見えていたこと。

そのころはここが通勤路だったこと。

白杖が人にぶつからないか心配なこと。

道が湾曲していて方向感覚が掴みにくいこと。

エスカレーターの昇降が場所によって違うこと。


そのほかにも、わずかな上り坂のスロープや

柱の位置で場所を特定していることも

お話ししてくれた。

僕がたくさん質問しすぎちゃったかもしれない。

ちょっと反省。


おじさんはとても優しい方だった。

僕が知らないことをたくさん教えてくれた。

以前、白杖を持った方の誘導方法を調べたことがあったけど

本当に知りたいことが載っていなかったから

とても勉強になった。


改札のICリーダーの位置もわかりにくそうだった。

タッチする前にICリーダーからも音がしたり、

リーダーのサイズがもっと大きい方がいいなとか

普段なら考えないところに思い至った。


ホームにつき、おじさんと僕は行き先が逆方面だったので

あいさつを交わしてお別れをした。


おじさんは完全に視力を失ったわけではないみたい。

でも、光だけしかわからないという。

動く人がわからないからとても怖いといっていた。


天井からぶら下がる案内掲示板の蛍光灯の光を目印に

進んでいるとのこと。

ぼんやりとした光だけを頼りに歩く。


僕は見えすぎて疲れてしまうことがよくある。

見なきゃいい、見えなきゃいい、

でも目に入ってきてしまう。

それに悩み、苦しんだ時期もあった。

今でも見なくていいものをみて

怒ったり、悲しんだりしている。

あ、スピリチュアルな意味ではないよ。


でも、いざ見えなくなったらと考えたら

途端に怖くなった。

そう、見えないって、怖い。


おじさんはずっと明るくお話しをしてくれて

チャーミングな人だった。

お話ししたのはたった5分くらい。

だけどもたくさんのことを教えてくれた。


今まで見ず知らずの人に「助けたい」と思って

近づいていた。

でも、「助けたい」と思って近づくことに

とても気が引けていたんだ。

まるで自分が相手より上の立場であったり

偽善者だったりのように感じてしまうことがあったから。


でも、僕の中にできるのにしないという選択肢はなくって。

だから毎回毎回、ちょっとの後ろめたさを心にぶらさげて

声をかけていたんだ。


でも、これからはそう思わずに済む。

”教えてもらいに声をかける”

そう思ったらずっと気分がいい。

知らないこと、できないことを補い合って

一緒に生きている感じがする。

うん、これはいい!


今日一番嬉しかったのは

エスカレータをスムーズに乗り降りできたこと。

それからスムーズに肘へ手をかけていただく

誘導ができたこと。



同じ状況下にいた昨年9月、

僕はその時は何もできなかった。

(以下、9月11日の備忘録)


だけど今は違う。

自信をもって声をかけることができる。

あの日から何度も何度もシミュレーションをした。

僕の理想は支え合ったり、助け合ったりしながら

人と生活をすること。

今日、そこに少し近づいた気がした。


形ばかりのバリアフリーではなく

心もバリアフリーになるといいね。


おじさんとの出会いは、

僕の瞳にも明るい光を届けてくれたような気がした。


今日も遊びに来てくれてありがとう。

家の近くのセブンイレブンで

シャネルのバッグを持った素敵なマダムがいた。

装いも素敵なマダム。

レジの列を間違えていたようで

正しい位置で待っていた僕に気がつき

僕の後ろに並ぼうとしていた。

だけども僕はマダムが僕より前に並んでいたのを

知っていたから

前に並ぶようにお声がけした。

でも、マダムは、いえいえ大丈夫ですよ、と

にっこり微笑み僕の後ろにならんだんだ。

素敵な人だった。

シャネルも喜んでた。

持つ人がもってこそ本当の輝きを放つんだと

またしても学びを得た。

パチモンだったら、うける。

それでは、また明日。


お粗末様でございました。











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