top of page

#ここはどこなんだ?

  • 執筆者の写真: toshiki tobo
    toshiki tobo
  • 2024年2月20日
  • 読了時間: 4分

SNSのよいところは、境をなくす点だと思います。わるいところは、どこにいるのかわからなくする点だと思います。これは国外のトピックなのか。これは国内のトピックなのか。これは北海道のトピックなのか。これは沖縄のトピックなのか。これは知り合いのトピックなのか。これは友達のトピックなのか。これはどこのトピックなのか?これは誰のトピックなのか?これは本当のトピックなのか?これは何のトピックなのか?あなたは誰なんだ?僕は今どこにいるのだ?


トピック間の平面な移動をしていたと思ったら、知らずのうちに高低差をともなう立体的な移動をしていた、なんてこともしょっちゅうあります。VISAも、パスポートも、乗り物も、移動時間も必要ないだだっ広い世界で、どこでもドアを使うように行き来していたつもりだったのに、ただただ同じ場所の地層を掘り進めていただけだったなんて怖いことがあります。わかったような顔をして、本当はどこへも辿り着けていなかった。




この半年の間、まともに文章を読むことは一切なく、アニメやドラマなどの架空の映像世界にすがるようにして生活していました。呼吸をするためにパクパクと口を動かすだけで、文字通り、ボケェ、と生きていました。が、だんだんとその習慣が逆転して、せき止められていた心臓の血が、勢いよく全身に巡るのを感じています。同時に、鈍っていたアンテナが水を得た魚のように蘇ってきました。冬が終わります。


取り入れるものがギョッとすどほど変わり、自分でもギョギョッとするぐらいに前のめりになって次の季節を捕まえに行こうとしています。押せども引けども動かなかったものが、おもかる石のようにいとも簡単に変わってしまうのですから、なんだか気持ち悪くもあります。そうなると、気にも留めてなかったことに途端に心奪われたり、1日の短さを嘆いたり憂いたり苛立ったりすることも増えてきます。はいはい、またこの場所にやってきたのね。


20年前のドラマを見ていた時のことです。「女の喧嘩は醜いですよ」というセリフに虚をつかれました。小さなころは素通りしていた大好きなドラマのひとつのフレーズが巨大な違和感として頭に残りました。安全だと思っていたところに自分との境を見つけ、僕は小さな後悔を覚えました。僕はそこへは行けないな。


ほどなくしてして、ルンルン春気分(気分二十面相)で開いた今春一作目の小説(1995年刊行物)を開いた時のことです。読み始めるや否や、ゴリゴリの家父長制との邂逅で、出端をくじかれました。と、同時に30年前ってまだここ(この段階)なのか、とつい最近と思っていた時代がえらくセピアであったことにも腰を抜かしました。確かに、築30年の物件をネットで見るとギョッとなったりするのですから、ほかのものだって同様に年老いて、老け込んで、シーラカンスになってたっておかしくないのです。そして、今年で三十路の僕(ギョギョギョッ!)。あれ、もうここなのか。




社会は全然前に進まない、とうっかり口からダダ漏らすことがあります。が、むしろそれは錯覚で、自分自身こそが前に進んでいないことがしばしばです。あるいは、自分が今どこにいて、どこへ向かっているのかわからなくなっている状態に陥っていたりします。意外にも、振り返ったり俯瞰したりしてみると、ずいぶんと遠くまで来た(来てしまった)ことや、周りの景色の変化にはっとさせられたりします。同じ場所でくすぶっていても、世界は確実に変わっていて、地団駄でさえ、足元にしっかりとした変化を生み出しています。三寒四温で春へ向かうように、社会はしっかりと前に進んでいます(流氷のスピードですが)。


いかなる時でも大切なのは、2人の自分を用意しておくことだと考えています。本能的に周りを観察し続ける自分と、それを確認し続ける理性的なもう1人の自分です。それは、SNSとの距離感を見つける作業だけでも充分に叶えられると思います。はっとしたら、ごんっと液晶をわるだけです(あら、簡単!)。


僕たちはこれから先もずっと、気が滅入るような現実を受け入れられず、エスケープしたいという欲望に駆られ続けます。その一つの手段としてもっとも身近に存在するのがSNSです。でも、ときにはそれを手放して、実体をともなう確かなものに手を伸ばし、今の自分やいる場所をただただ眺めてみるのもいいものです。そうすることで、エスケープした時に、エスケープしがいをより感じられるかもしれません。さらには、自分が何人にも分裂したような、一種の境地に達することもできるかもしれません。今、ここ、自分、を大切に!




ところで、僕は今どこにいるのだ?






Comments


bottom of page