#されど、この日常
- toshiki tobo
- 2023年8月6日
- 読了時間: 4分
更新日:2024年8月15日
8月6日には8月6日のことを考えることにしています。空に目をやれば今年も碧天。清々しいほどまでに突き抜けた青空は、何事もなかったかのような、これからもずっと続いてゆくような幻想を抱かせます。
さて、先日久しぶりにスーパーへ買い物へ行きました。ここ数日、忙しさにかまけて、まともに包丁を握れていませんでした。スーパーへ着くや否や旬の野菜の高騰に驚愕しました。旬の野菜がなぜこんなにも高いのか。これは目を背けてはならない現実だな、と意を強くしました。
それでも夏野菜を食べたくて、仕方のないものと腹を括り、いくつかを買い物かごの中へ入れてゆきました。そのうちの一つにズッキーニがありました。かつてズッキーニは僕にとっては異端な存在で、その名を口に出すものがあろうものなら、すかさず軽蔑の眼差しをお見舞いするほどでした。それが5年ほど前のことです。時は過ぎ、今では好きな野菜の一つとして穏やかな気持ちで買い物かごへ迎え入れています。
ズッキーニに愛情が芽生えたのは、そのおいしさだけではなく、あの独特の硬度に大きなウェイトを占めているような気がしています。きゅうりとなすを足して2で割って、じゃがいもとにんじんをかけたり、引いたり?した、あの独特な硬度。包丁の刃を入れた時の独特な感触がたまらなく好きです。刃先に切った後の食材がへばりつくことなく、サクサクと手を動かせるところにも好感を抱いています。そういう瞬間に、仕方なくする料理から楽しむ料理へ昇華しているような感覚を覚えます。
料理でつながってゆく話なのですが、先日家族が自宅に寄った時に母が手作りの料理を冷凍して持ってきてくれました。小分けになったものを一つずつ解凍しながら食べているのですが、どうももったいなくて一気に食べられずにいます。よく知る母の料理の味なのですが、今となっては滅多に口にすることができないその味が名残惜しく、減ってゆくのを寂しく感じています。祖母と母の味で育ったため、自身で作る料理もそこに限りなく近いものを感じるのですが、実際にはまったくの別物で。所詮僕のはレプリカで同じものを作れない悲しさもあります。まったく同じ味を引き継げないという意味では、失われてゆくものの一つのように思われました。
さらに、食でつながってゆく話なのですが、先日ふと家の近くのハンバーガーショップへ行ってみました。個人経営のお店で、ザ・アメリカンというような出立ちのお店でした。お店の方はテキパキと、そして大変暖かい対応をしてくださったので、お店の中でいちばん高いハンバーガーを頼みました(贅沢は敵ではないので)。僕の大層こじんまりとした口ではまったく入らないほどの厚みのあるハンバーガーで、鼻先や頬にチーズやソースをつけながら夢中で頬張りました。本当においしかった。空腹だったこともあり、あれよあれよという間に平らげ、お会計を済ませました。お店を出る時、「いつもありがとうございます!」と言われました。初めて伺うお店だっただけに、驚きましたが、店員さんが人違いをした可能性もありますし、単純に言い間違いかもしれませんし、本当にそっくりな人がいるのかもしれません。ドッペルゲンガーに会ったら死ぬという迷信が脳裏に浮かびちょっと怖くなったりなどをしましたが、真相は迷宮入りです。中途半端に考えては、ふっと青空へ手放しました。
話は戻りますが、8月6日を思い出すことは平和やそれについてまわる責任についてを考えることだと思います。僕はただでさえ頭でっかちなので、別に8月6日でなくともそれらについて考えることはあるのですが、いつもに増して真剣に考えるようにしています。8月6日のような負の記念日が増えぬように願ってやみませんが、残念ながらそうもいかない嫌な予感がするのも確かです。
政治を憂いたり、母の味に寂寥の念を感じたり、有益でも無益でもない空想妄想にうつつを抜かしたり、人生は予測不能で、気まぐれで、ままならないものではありますが、どんな時でもそこには人の血が流れない平和があってほしいと願っています。
人の人生はただの壮大な暇つぶしです。おこなう事の価値の大小は人が都合よくつけたエゴに過ぎません。踏んだり蹴ったりな問題たっぷりな世界ではありますが、誰しもの命が尊く、かけがえのないものであるということが当たり前に認知される社会が今すぐにでも訪れることを心から願っています。
先日、大学時代の先生とマティス展へ行ってきました。「私が知る中でもっとも卑しい生き物は人間だ」という言葉に続けて「最低だからこそ、あとはのぼるだけ。可能性は無限大。関ジャニよりも無限大」などと訳のわからないことを、64歳だけど四捨五入すれば大体60歳が口癖の先生は言っていました。
可能性は無限大に輝かしい希望を感じた、夏バテ気味の僕の考え事のお話でした。

Comments