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#ビンもつかめぬエキストラ

  • 執筆者の写真: toshiki tobo
    toshiki tobo
  • 2021年8月21日
  • 読了時間: 3分

職場といったらどんな場所を想像するかな?

僕はデスクが整然と並んだオフィスとか事務所を思い浮かべる。

それは僕の仕事がデスクワークだからだ。


でも、今日はまっまく違う職場を見た。

ドラマの撮影現場。

ゆいちゃんの職場だ。


僕の繋がりの大半は高校時代の友達。

ゆいちゃんもその繋がりのうちのひとり。


ゆいちゃんは撮影現場のADとして汗水流している。

先日ドラマのエキストラを急募していて、

場所を聞いたら僕の家からわりかし近くだった。

撮影現場を見てみたい気持ちとゆいちゃんに久々に会いたい気持ち、9:1で現場へむかった。


集合時間は朝7時。

「朝ランついでに行きますよ」と

何とも小生意気な言葉を引っ提げて、

2キロの道のりを走って向かった。


秋の設定だったので、パーカーを用意してもらったのだけど、

半袖ノースリーブですら滝汗の僕には何とも過酷な現場だった。


エキストラのみの撮影回とのことで、

プロのエキストラの方々がいらっしゃったわけだが、

なるほどなととても勉強になった。


シーンごとに服を着替えたり、髪型を変えたりして、別人を装い、

何食わぬ顔でカメラの前で日常を演じていた。

素直にすごいなぁと思った。


そんななか僕がやったのは、薬局で栄養ドリンクのビンをつかむ役と

通りすがりのランニングマンを演じることだった。


これだけなのだが、意外にも難しく、

まるでセンスが1ミリもなかった。


ビンをつかむタイミングが、早いだの、遅いだの、わざとらしいだの指導され泣きそうだった。

指導って怖い。


普段の行動がわざとらしいだけに、

「普通って何だろう!?」と

アワアワしてしまったのだ。


ビンすらまともにつかめない。

27歳独身男性。

映画でも作ってほしい。


ランニングマンはそつなくこなせた。

だって、今さっきまでランニングしていたからね。

すでにランニングマンだったから、演じる必要なんてまったくない。

完璧すぎて感動の嵐が吹き荒れた。

泣いちゃった。うそ。


肝心なゆいちゃんはというと

太陽のように輝いていた。

平塚らいてふを思い出した。


現場では「雨宮」とか「雨ちゃん」と呼ばれているようだった。

エキストラへの指示や、テストや本番の掛け声をしていたのだけど、

ゆいちゃんの声は晩夏の青空に高く遠く響いていた。

学園祭を思い出した。


彼女は高校生の頃から映像制作の舞台で勝負をしたいとそう夢を語っていた。

あの日の夢の上に彼女は今立っている。

かっこいいことだね。


今日の撮影は朝の7時から夜の10時までだと聞いた。

本当に大変なお仕事だ。


本当はスタッフの方々とお話をしてみたり、

撮影現場でお手伝いをしたり、してみたかった。

だけどここはゆいちゃんの職場で

余計なことはしてはいけないなと思いとどまった。

僕は任された仕事をきっちりこなすことが大切で、

余計な空気を持ち込んでは行けないなと感じた。

だって、仕事がろくにできないくせに、

調子だけいい人が職場にいたら嫌だよね。


一昨年の夏、仕事が辛くて

山梨にエスケープしてきたゆいちゃんに会った。

そのときのゆいちゃんの顔は

なんだか疲れ果てていた。


不規則な時間帯で生きることは誰にとっても辛い。

やりがいや生きがいがそこになくなってしまったら

続けることなんてできないよね。


でも彼女は再びリングにあがった。

そして今日、当時のゆいちゃんはどこにもいなかった。

誰よりもたくさん走って、叫んで、名前を呼ばれていた。

現場の中心だった。

眩しいぐらい輝いていた。

嬉しかった。


夢があるから人は何度でも立ち上がれる。

ゆいちゃんはそれを身をもって示してくれた。

輝く人はかっこいい。


素敵な体験をありがとう!


今日も遊びに来てくれてありがとう。

ゆいちゃんから借りたパーカーは小一時間で汗だくになった。

所用でお暇した僕はその場でそのまま返した。

ごめんね。

エキストラの分際で偉そうにペットボトルのゴミも押し付けた。

ごめんなさい。

素敵なドラマを楽しみにしているよ。

それでは、また明日。


お粗末様でございました。





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